小説:所有するもの(2/3)
2008 / 07 / 23 ( Wed ) 19:52:05
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【所有するもの】 2.男 どうしてここに来た? そう訊いたとき、彼女はにっこり微笑んだ。 ――おなか、空いたから……。 シープが住み着いて一ヶ月が経った。 しかし、ここに来る客人はその誰もが、彼女の存在に気づかなかった。ラクーンはシープを店に出さないようにしていたし、実際彼女はよく言いつけを守り、客の前にその姿を見せたことはなかったからだ。Caféハイラに女は不要。ここは男たちの、冒険者たちのひとときの憩いの場であるがゆえに。 それでも退屈なのか寂しいのか、客がいないときにたまに店まで出てくることがあった。そのたびにラクーンは彼女に何かをこしらえてやる。しばらくして、彼女はおなかが空いたから店まで出てきたのだと気づき、ラクーンは苦笑した。 欲しいものは、暖かい寝床と、美味しい食べ物。最近それに魅惑のラクーン、が加わったことを知らないラクーンは、シープを呑気な女だと評していた。彼が店で何をしていようとも、寝床と食べ物さえあれば、彼女は何も言わないだろうとさえ思う。 (女って、もう少し面倒な生き物だと思ってましたけど) 彼が描く女性像と重なるところは、甘いところに目がないことだけだ。嫉妬深くもないし、ラクーンにいろいろ指図をするわけでも、口うるさくもない。意味なく喚きたてることもなければ、彼に口答えすらしたことがないのだ。……欲する二つのものが与えられれば。 「ありがとうございました」 その日もラクーンは客を見送ると、ふと気になって部屋に戻る。そこではシープが小難しい本を読んでいる。ひょい、と取り上げると、彼女は怪訝そうな顔をした。 「お仕事、終わったの?」 「いいえ」 彼女が読んでいた本は、ラクーンには、ミミズがのたくった字が連なっているようにしか見えない。古代文字で書かれた魔法書なのだとシープは言った。 口付けて、胸をわしづかみにする。僅かに身をよじっただけで、シープは抵抗はしない。弄ぶようにもみしだくと、少しずつ彼女の息があがっていく。 「まあ、わたしは店に戻りますけどね」 最後に深い口付けを与え、ラクーンは部屋から出た。 客の入り具合は、まあまあだ。忙しくもなければ、退屈でもない。そういえば、シープが来てから、何故か新規の客が多い。半分は一回で終わるが、残りは二度、三度と訪れ、常連となってゆく。ありがたいことに、その皆が男たちである。シープが、自分が食べさせてもらっている分だけCaféの稼ぎが増えるように、魔法をかけたのかも知れなかった。 ドラゴンが来たのはそれからしばらくしてのこと。 「おや、これは珍しい」 ラクーンは目を細める。 「ようこそ、Caféハイラへ」 「たまには顔を出しておこうと思ってな」 ドラゴンは、ここの最初の客だった。そしてラクーンに時間を掛けて様々なことを仕込んだ張本人でもある。眠っていた素質を蘇らせ、心より望んでいた静かな暮らしを与えてくれた彼のことを、ラクーンは好いていた。 無論、それは愛だの恋だのいうものとは違ったが――。 「いつものを」 「かしこまりました」 ラクーンは手早く紅茶を入れる。そう、ドラゴンも紅茶を所望する珍しい客だった。彼の望むのは、まるで闇のように濃く入れたアッサムティーだ。そして、甘さ控えめのクッキー。 「どうぞ」 「ああ」 ドラゴンはいつものようにカップを啜り、にやりと笑う。 「旨い」 「それはどうも。あなたのために淹れた紅茶ですからね」 ドラゴンは、それきり黙りこんだ。ラクーンも特に話しかけることはしない。そういう雰囲気を発していないからだ。ラクーンはカウンターに座り、自らも物思いに耽ることにした。 思い浮かぶのは、食いしん坊シープのこと。ここ一ヶ月、彼女は何もしていないはずなのに、見ていて飽きなかった。そして何より彼女の真価は夜にあった。何をするというわけではないのだが、ラクーンの求めには必ず応じたし、どんなに激しく求めても、必ず彼を受け止めた。先ほどもそうだった。そして応えて、啼き、身をよじらせる……彼女が下手するとラクーンより物を食べるのは、どうしても劣る体力を補うためなのかもしれなかった。 いい拾い物をした。もっとも、向こうから飛び込んできたのだが……。 「ラクーン?」 我に帰ると、ドラゴンがこちらを怪訝そうに見ていた。 「あ……すみません。お替りですか?」 「いや」 ドラゴンは短く切り返す。 「追加だ。お前をもらおう」 す、とドラゴンが右手を伸ばす。ラクーンはその手を取ると、手の甲に口付けた。そのまま、上目遣いで瞳を捉える。 「仰せの通りに……」 唇を離すと、ラクーンは彼の指を口に含む。甘噛んだり、舌を這わせたりしながら、愛撫する。ドラゴンは表情も変えず、そんな彼を見ている。 「変わったな、ラクーン。なんだか愛撫が細やかだぞ」 ドラゴンは、くつくつと喉の奥で笑った。 「いや、それは成長したというべきか。いい傾向だ、久しぶりに来た甲斐があったというもんだ」 指を抜くと、ラクーンはカウンターからドラゴンの側に出てくる。次の瞬間、彼は抱きしめられた。力強く、頼もしい胸の中に、ぎゅっと。久しぶりのドラゴンの匂いに、彼の身体は少しずつ喜びを感じ始めていた。 と、ドラゴンが不意にラクーンを突き飛ばした。だん、と大きな音がして、ラクーンがテーブルと椅子の間に崩れる。 「つ……」 ラクーンはドラゴンを見上げる。 「相変わらず、荒々しいお方だ。抱きしめたと思ったら、突き飛ばされる……」 「不満か?」 「いいえ」 ドラゴンはラクーンを助け起こすと、貪るように唇を奪った。舌を差し入れて、強引に歯茎を嬲り、唇を強く吸う。 「っはぁっ」 離すと、苦しそうにラクーンが喘ぐ。ドラゴンは今度は彼の前髪を掴むと、荒々しく唇を奪った。 (ああ、こういう愛し方があるのか) ラクーンはぼんやりした頭でそう思う。 「ふわぁっ!」 乳首を強くつねられて、ラクーンは声を上げる。ドラゴンは、にこりともしない。ラクーンを再び突き飛ばすと、上にのしかかった。 布の破れる音がする。お気に入りだったのだが、と心の中で呟くラクーン。同時に、どうしようもないほどに期待で胸が高鳴っていることに気付く。ドラゴンは、ラクーンの肌に舌を這わせたり、たまに強く噛みついたりしながら、彼なりの仕方でラクーンを愛した。痛みと隣り合わせの歓喜に、少しずつ余裕と理性がなくなっていく。 「はっ……ふ……はっ、はっ……!」 店に響くはラクーンの息遣いだけだ。ドラゴンは、ようやく少しだけ満足したような顔を見せた。 「犯してやろう」 言うが早いか、熱いものの侵入が始まる。あっという間に身体に埋め込まれたそれは、強い圧迫感をラクーンに与える。受け入れる、満たされる喜びが、ラクーンを啼かせた。繰り返される抽送と、膨らんでいく歓喜。最早ラクーンにいつもの余裕はない。 「ーーーっ!」 ひときわ大きくラクーンが啼く。のけ反らされた喉に、間髪入れずにドラゴンが食らいつく。ラクーンの身体がびくんびくんと跳ねる。それが収まってから、しかしドラゴンには彼を解放してやる気持ちなど毛頭なかった。 「とことん愛でてやろう」 耳元に囁いて、再び彼を責めたてる。 コトが終わったとき、ラクーンはぐったりとその場に倒れるだけだった。 雄の匂いが店内に充満している。掃除するのは大変だろうが、それは自分の仕事ではないと、ドラゴンはうそぶく。 「立てないのか?」 訊くが、ラクーンは答えない。虚ろな瞳でドラゴンを見ているだけだ。どうやら、久しぶりの再会に、少しいじめすぎたようだった。ラクーンをここまで消耗させるとは。 「お前、変わったな。何かあったのか?」 何がどう、というわけではない。具体的な変化は愛撫が細やかになったことだろう。それ以外にも、何かが違った。何というべきだろう、すべてを受け入れる男として、深みが増したような、懐が広くなったような……。 ラクーンが答えるわけがない。それだけの体力さえも、残されていないのだ。 「仕方ない。ベッドまで運んでやろう」 ドラゴンはひょい、と彼を抱え上げる。ラクーンは小さく抗議の声を上げようとしたが、それすらも億劫だということに気付き、愕然とする。 (シープが……) ドラゴンはカウンターの奥に向かうと、ラクーンの部屋に向かう。 ドラゴンにとっては意外なことに、そこには先客がいた。 「女?」 桃色のふわふわした髪の若い女が、ラクーンの寝台の右端に丸くなっていた。幸せそうな顔で眠っている。 「女。なるほどな」 確かラクーンは女を知らなかったはずだ。教師時代に女子高生どもの相手をしていて、おおよそ女というものに興味を抱けなくなったと話していた。そのラクーンが、女を知った。なるほど、彼の変化はここに眠る女が導き出したものなのだろう。 「これは……おもしろいことになったな」 「彼女に……手を出さないで、くださ……」 ラクーンが腕の中でようよう抗議の声を出す。 「わたしのもの、なんです……」 「心配いらん。お前の許可なしにいただくほど、俺は野暮じゃない」 女を起こさないように、掛け布団の上にそっとラクーンをおろした。 また明日、様子を見にこよう。ドラゴンはそう思った。 ----------------------------------------------------------------- 「腐」なんて無理です(笑) |
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